経験は、未来の必然性を教えるか。
歴史と問い
経験を問う
経験論の伝統は、観念がどこから来るかと、そこから何を知れるかを考えました。ロックは生得観念を批判し、感覚と反省を観念の源として論じます。経験を重視することは、考える能力を不要とすることではありません。経験からどのように一般的な知識が成立するかという難しさが残ります。
知覚されるものと物質
バークリは感覚される対象と知覚の関係を論じ、心から独立した物質的実体を吟味しました。存在するとは知覚されることであるという表現は、彼の観念と精神の区別の文脈で読む必要があります。目を閉じれば何もかも消えるという一言だけでは、神や精神の役割を含む理論を説明できません。
ヒュームの因果と習慣
ヒュームは強い印象と、その写しとしての観念を区別します。因果については、繰り返し観察された連続から、どう必然的なつながりを知れるかを問い直しました。太陽がこれまで昇ったという経験から、明日の出来事を論理だけで保証できるでしょうか。習慣が信念を形づくる働きが重要になります。
経験と自己を読み直す
ヒュームの自己への議論は、経験の中に不変の自己を見いだせるかを問います。また、事実についての記述から道徳的な結論へ移るときの根拠も検討しました。経験論を「感覚がいつも正しい」とする立場へ単純化せず、誤り、推論、他者との生活をどう説明するかまで追いましょう。
議論を深く読む
経験という語の幅
経験論を、目で見たこと以外は何も認めない立場と呼ぶのは正確ではありません。ロックは感覚と反省を区別し、心の働きについての経験も論じます。知識の起源を経験に求めることと、すべての個々の判断が直接観察だけで証明されることは別です。抽象、推論、記憶の働きも検討の対象になります。
バークリの物質批判
知覚される性質から独立した物質的実体を何によって知るのかを、バークリは問います。物質を批判することは、机や木を日常的に語ることをすべて禁止することではありません。精神、観念、神の役割を含む説明を持ちます。ロック、バークリ、ヒュームの違いは、知識の起源が経験だという見出しだけでは理解できません。
ヒュームの因果と習慣
過去に二つの出来事が繰り返し続いても、未来にも必ず同じになるという論理的な必然性は、その観察から直ちには得られません。未来が過去に似るという前提を経験で証明しようとすれば、同じ推論に頼ることになります。ヒュームはこの問題を示したうえで、人が習慣によって期待し行動することを説明します。
生活の不能を命じたわけではありません。
CLOSE READING
明日も同じになる、という理由を分解する
読む箇所:ヒューム『人間知性研究』第4節・第5節 · 以下は本書による解説・再構成です。
ある装置が百回続けて同じ結果を出したとします。百一回目も同じだと期待することは自然です。しかし過去の記録の中に、未来の一回がすでに含まれているわけではありません。「過去と似た条件なら未来も似る」という橋渡しの前提を置いています。ヒュームの問いは、この橋渡しを何が支えるかにあります。
過去にその予測方法が成功したことを証拠にすると、過去の成功から未来の成功を推論します。まさに根拠を問われている種類の推論を、根拠の説明に再び使うことになります。また、次の結果が違うことを考えても論理的な矛盾にはなりません。したがって数学の証明と同じ仕方の必然性を、単なる反復から取り出すことはできません。
ここで残るのは、予測をすべて捨てる命令ではありません。ヒュームは習慣による期待の成立を説明します。私たちが使う測定、確率、条件の統制については、それぞれの方法が何を保証するかを別に問えます。「絶対に証明できない」と「根拠が一切ない」の間を区別することが、この議論を現在の探究に生かす際の要点です。装置の例は本書による説明です。
論証の筋道
この章の議論を読むための整理です。原典の論証をそのまま逐語的に再現したものではありません。
経験の由来を確かめる
観念や信念がどの印象・経験に関わるかを問う。人が持つ言葉に、理解可能な内容が伴うかを調べる。
連続と必然を分ける
出来事が一緒に起きたという記録と、必ずそうなるという結びつきを区別する。因果を語る根拠が問題になる。
期待の成立を説明する
証明が困難でも人は予測し行動する。合理的な保証の問いと、習慣による心理的な説明を区別する。
反論と残る問題
科学は無意味になるのか
帰納の基礎づけの問題は、観察や検証が一切役立たないという結論ではありません。予測の信頼度、反証への対応、判断を修正する方法を考える課題が残ります。確実な証明と、根拠を持つ暫定的な判断の差が重要です。
原典を読む
読む場所と読みどころを示します。「研究解説・文献案内」のリンク先は原典本文ではありません。邦訳の書名、章番号、訳語は版によって異なる場合があります。
PRIMARY READING
『人間知性論』
読む場所:第2巻・第1章
感覚と反省の説明を読む。経験の重視が、人間の心を完全に受動的な容器とするかを吟味する。
研究解説・文献案内研究解説・文献案内を開く ↗PRIMARY READING
『人間知性研究』
読む場所:第4節・第5節
経験からの推論の根拠への問いと、習慣による応答を読む。帰納の問題と、行動を支える説明を区別する。
英語本文・版情報本文・版情報を開く ↗自分で考える
YOUR REASONING
未来についての予測が「十分に信頼できる」と言うとき、何を基準にしているでしょうか。
自分の主張、支える理由、最も強い反論を書き出してみてください。一つの正解を選ぶ問いではありません。
用語の確認
意味を確かめたい項目だけ開いてください。本文で論じた文脈に即した短い説明です。
生得観念
経験の前から普遍的に備わる観念があるかを問い直しました。
確認する論点:ロックが批判した、人が生まれつき持つとされる観念は
感覚と反省
外の対象についての経験と、心の働きへの反省が区別されます。
確認する論点:ロックの観念の源となる二つのものは
『人間知性論』
観念、言語、知識の成立と限界を検討する著作です。
確認する論点:ロックの知識論の代表的な著作は
一次性質と二次性質
対象の性質と、感覚に生じる観念との関係を考えるための区別です。
確認する論点:ロックが形や運動などと、色や味などを分けた区別は
タブラ・ラサ
生得観念への批判と関係しますが、生まれつきの能力まで一切否定する意味ではありません。
確認する論点:ロックの白紙の比喩として知られる表現は
経験論
経験の役割を重視しつつ、経験からの推論の範囲も検討します。
確認する論点:観念の成立を経験と結びつける哲学的な傾向は
バークリ
バークリは、感覚される対象を知覚や精神との関係で論じます。
確認する論点:心から独立した物質的実体を批判した思想家は
感覚される観念の存在
彼の理論では観念と精神は区別されるため、標語だけで全体を説明できません。
確認する論点:バークリの「存在するとは知覚されることである」が特に関わるのは
神による知覚
人が見ていないときの対象をどう説明するかには、神の役割が関わります。
確認する論点:バークリの世界の持続の説明で重要な役割を持つものは
印象と観念
印象は生き生きした知覚、観念はそれを考える際の弱い表象として区別されます。
確認する論点:ヒュームの心の内容の基本的な区別は
習慣
繰り返された経験に基づく期待と、論理的な必然性とは区別されます。
確認する論点:ヒュームの因果論で、連続した経験から期待を形成する働きは
帰納の問題
経験の一般化を、同じ経験の一般化だけで証明すると循環が問題になります。
確認する論点:過去の観察が未来にも当てはまることをどう根拠づけるかという問題は
事実の問題
事実の問題は経験と関わり、その反対が論理的に不可能とは限りません。
確認する論点:ヒュームが観念の関係と区別した、世界の出来事に関する知は
移り変わる知覚のまとまり
不変の自己が経験の中に見いだせるかを吟味します。
確認する論点:ヒュームの自己に関する探究で重視されるものは
規範への移行の根拠が必要
ヒュームは議論の移行に注意を促しました。規範的な前提を点検します。
確認する論点:事実を述べる「である」から「べき」へ移る際の問題は
経験の役割と知識の限界を考える
ロック・バークリ・ヒュームにも重要な立場の違いがあります。
確認する論点:経験論について適切な説明は
過去の経験だけで未来を演繹的に保証できない
経験に基づく合理的な期待と、論理による必然的な保証を分けて考えます。
確認する論点:明日の太陽についての予測を論理的必然性と区別する理由は
研究資料
人物・概念・著作の確認に用いる学術解説です。原典への書誌案内は各記事のBibliographyも参照してください。
- John LockeStanford Encyclopedia of Philosophy
- George BerkeleyStanford Encyclopedia of Philosophy
- David HumeStanford Encyclopedia of Philosophy