受け継いだ言葉を、別の場所で問い直す。
歴史と問い
翻訳と実践の歴史
日本の思想は、中国やインド、後にはヨーロッパなどとの交流の中で形づくられました。仏教の受容では、儀礼・修練・言語・国家の関係が多様に論じられます。空海、道元、親鸞などの探究は同じ一つの教えではありません。何をもって変化や救いと考えるか、実践にどんな意味があるかを比較しましょう。
古典を読み直す
近世には儒学の受容だけでなく、古い文献を読み直す古学や国学が発展しました。伊藤仁斎、荻生徂徠、本居宣長は、言葉や古典の意味をそれぞれ異なる仕方で問い直します。「日本的」とまとめるだけでは、学派の対立や社会との関わりが見えません。古典の解釈は、その時代の新しい問題への応答でもあります。
近代の新しい語と自己
近代には、西洋の学問や制度が紹介され、哲学という名称も定着しました。西田幾多郎は経験と自己を問い、知る者と知られるものを最初から分ける見方を吟味します。純粋経験は、単に幼稚な経験や感覚の寄せ集めという意味ではありません。経験の成立そのものを考えるための概念です。
関係を考え、歴史を批判する
和辻哲郎の間柄は、人を孤立した個人だけとして捉えることを問い直します。同時に、共同体への関わりを個人の自由の消去へ結びつけてよいかは検討が必要です。近代日本の思想と国家・戦争・植民地の関係も批判的に読みます。人物の貢献と歴史的な責任を別々に丁寧に考えましょう。
議論を深く読む
受容という創造
日本思想を、海外の学説のコピーと呼ぶことも、変わらない日本的精神の表れと呼ぶこともできません。仏教、儒学、近代の哲学は、翻訳、教育、政治、宗教実践の中で問い直されます。「哲学」という近代の学問語の導入以前にも思想の探究はありましたが、すべてを現在の大学の分類へ当てはめることには注意が必要です。
修行と理解の順序
道元の著作では、修行をあとで悟りを獲得するための単なる手段とみなす図式が揺さぶられます。実践と理解、自己と世界を切り離して考えたときに見落とすものが問われます。『正法眼蔵』には多様な巻と成立の経緯があり、短い一節だけで一つの整った体系に置き換えない読み方が必要です。
個人の内部から関係へ
西田の純粋経験は、出来事を主観と客観に分ける以前の経験を考える出発点です。和辻の間柄は、個人が他者との関係と共同的な仕組みの中で生きることを問題にします。ただし関係を重視することが個人の自由を必ず守るとは限りません。国家や共同体に関する議論の政治的な条件も、思想の評価に含める必要があります。
論証の筋道
この章の議論を読むための整理です。原典の論証をそのまま逐語的に再現したものではありません。
実践と目的の関係を問う
学ぶことや修行することを、外にある成果を買う手段としてだけ考えていないかを確かめる。
経験の分割を検討する
主観と客観という区別が、経験のどの段階に導入されるかを追う。純粋経験を感覚の無秩序や神秘体験の別名にしない。
関係の両面を見る
他者との関係が個人を成立させることと、共同体が個人を抑圧しうることを併せて検討する。
反論と残る問題
「日本的」で説明を終えない
文化の名称を理由にすると、著者同士の対立や時代による変化が消えます。戦争、帝国、教育制度への関わりを含め、どの時点の誰の主張かを確かめることが必要です。
原典を読む
読む場所と読みどころを示します。「研究解説・文献案内」のリンク先は原典本文ではありません。邦訳の書名、章番号、訳語は版によって異なる場合があります。
PRIMARY READING
『正法眼蔵』
読む場所:「現成公案」「有時」
自己、世界、実践、時間を論じる言葉を読む。巻の配列や版による差を確認し、一節の訳だけで判断しない。
研究解説・文献案内研究解説・文献案内を開く ↗PRIMARY READING
『善の研究』
読む場所:第1編「純粋経験」
主客の区別と経験の関係を追う。この初期著作の語彙を、西田の後期の体系すべてと同一視しない。
日本語本文本文を開く ↗自分で考える
YOUR REASONING
個人を尊重することと、個人が関係の中で成立することは、どう両立するでしょうか。
自分の主張、支える理由、最も強い反論を書き出してみてください。一つの正解を選ぶ問いではありません。
用語の確認
意味を確かめたい項目だけ開いてください。本文で論じた文脈に即した短い説明です。
即身成仏
身体・言葉・心の実践と覚りの関係を考える重要な概念です。
確認する論点:空海の密教思想における、生きた身での覚りに関わる概念は
只管打坐
坐禅を外にある結果だけのための手段とせず、その実践の意味を問い直します。
確認する論点:道元の思想で、坐禅の実践を表す重要な語は
『正法眼蔵』
道元の言語と実践、自己への問いを知るための主要な著作です。
確認する論点:道元の代表的な著作は
他力
他力を単なる他人任せと同一視せず、信と救いの文脈で理解します。
確認する論点:親鸞の思想で、自力と区別される重要な概念は
法華経
日本仏教内部の違いを考える際、経典の位置づけは重要な手がかりです。
確認する論点:日蓮が中心に置いた経典は
伊藤仁斎
仁斎は古い言葉の意味を考え、朱子学への批判を展開しました。
確認する論点:儒学の古典を読み直す古義学で知られる人物は
荻生徂徠
古典の言語を読み、制度や政治のあり方を考える立場です。
確認する論点:古文辞学で知られる近世の思想家は
本居宣長
宣長は古典の文献と日本語の意味を詳しく検討しました。
確認する論点:『古事記伝』を著した国学者は
もののあはれ
感受のあり方と文学の理解を考える重要な語です。
確認する論点:本居宣長の文学理解に関わる代表的な概念は
西周
西洋の学問の紹介と日本語の学術語の形成が、近代思想の背景です。
確認する論点:近代日本で「哲学」の訳語の定着に関わる人物は
福沢諭吉
学びと自立、社会のあり方を問いかけた近代日本の著者です。
確認する論点:『学問のすゝめ』で知られる人物は
西田幾多郎
西田は経験と自己の成立を探究し、独自の哲学を展開しました。
確認する論点:『善の研究』を著した哲学者は
純粋経験
純粋経験は、経験を初めから主体と客体の二つへ分けてよいかを問う概念です。
確認する論点:『善の研究』で中心となる、主客を分ける以前の経験に関わる概念は
場所
日常的な住所の意味ではなく、存在や判断の成立を考える哲学的な概念です。
確認する論点:西田が後に展開した、経験や存在の成立の場に関わる概念は
間柄
個人と人間の共同性を、対立だけでなく関係の中で捉えます。
確認する論点:人間を関係的な存在として考える和辻の重要な語は
人間の存在と環境・文化の関係
単純な気候決定論としてではなく、人間の歴史的な存在との関係を読みます。
確認する論点:和辻の『風土』が検討する主題は
時代・学派・交流の違いを消してしまう
伝統内部の批判や、他地域との交流を具体的に理解することが必要です。
確認する論点:日本思想を「一つの国民性」で説明する際の問題は
研究資料
人物・概念・著作の確認に用いる学術解説です。原典への書誌案内は各記事のBibliographyも参照してください。
- Japanese PhilosophyStanford Encyclopedia of Philosophy
- Nishida KitarōStanford Encyclopedia of Philosophy
- Watsuji TetsurōStanford Encyclopedia of Philosophy