誰の経験が、普遍と呼ばれてきたか。
歴史と問い
誰の言葉が哲学と認められるか
アフリカとラテンアメリカには、多様な言語・社会・口承・著述の伝統があります。哲学の歴史を一部の言語で書かれた学園の文献だけに限定してよいでしょうか。同時に、地域の文化を全員が同じ信念を持つ集団として描くことも、内部の批判と個人の論証を消してしまいます。
個人の議論と共同体
アフリカ哲学では、民族の世界観の記述と、個人が理由を示して批判する営みの関係が問われました。フントンジの民族哲学への批判や、ワイヤドゥの概念的な脱植民地化は、その異なる方向を示します。オルカの賢人哲学は、口承の中の批判的な思考にも注目しました。すべてを同じ共同体主義とみなすのは不適切です。
植民地の経験と知の秩序
ファノンは植民地支配が身体や自己理解、社会の関係へ及ぼす影響を論じます。ラテンアメリカでは、ヨーロッパの思想の受容と批判、先住民の経験、解放の問題が重なります。ドゥッセルの解放の哲学や、キハーノの植民性への分析は、政治的な独立の後にも残る関係を問い直す手がかりです。
翻訳を開かれた対話にする
脱植民地化は、ある地域の思想をすべて排除して別の一つへ置き換えることだけではありません。誰が問いを立て、誰の経験が証拠として認められるかを検討します。ウブントゥにも複数の解釈があり、アフリカ全体の一つの教義ではありません。具体的な著者と共同体、論争の文脈を残す比較が必要です。
議論を深く読む
地域を一つの教義にしない
アフリカやラテンアメリカの哲学には、専門的な学問、口承の思索、政治的な解放、宗教や共同体との議論など多様な場があります。一つの共同体的な世界観ですべてを説明すると、内部の対立と個々の思想家が見えなくなります。誰が語り、記録され、哲学として認められるかという条件も探究の対象です。
植民地化は過去の出来事だけか
政治的な独立の後にも、労働、土地、知識、人種的な分類の構造が続く場合があります。キハーノの権力の植民性は、その持続を考える概念です。ヨーロッパ中心主義を批判することは、地域の出自だけで議論の真偽を決めることではありません。ある知の制度が、誰の経験を標準とし、誰を対象として扱うかを問います。
人間性の傷と解放の難しさ
ファノンは、植民地支配のもとで人が他者の視線と言語の中に置かれる経験を分析しました。心理の問題と政治の問題は切り離されません。解放を論じる著作の暴力の議論も、刺激的な一節だけで評価せず、支配の構造、組織、独立後の国家への批判を含めて読む必要があります。紹介することと主張を無条件に承認することを分けます。
論証の筋道
この章の議論を読むための整理です。原典の論証をそのまま逐語的に再現したものではありません。
語りの条件を調べる
文章だけを唯一の哲学の形と決めず、対話、口承、記録の方法を見る。同時に文化全体を一人の話者の思想にしない。
分類と制度を結びつける
人種、文明、労働などの分類が、資源や権限の配分とどう関わるかを追う。偏見を個人の内面だけで説明しない。
普遍の範囲を問い直す
普遍的な権利や理性を語るとき、どの経験が前提になっているかを見る。共通の原理を求めることと差異を消すことを区別する。
反論と残る問題
「西洋」と「非西洋」の固定を越える
批判のための区分も、交流、混成、内部の対立を隠す可能性があります。出自が同じなら同じ思想という説明を避け、個々の論証と歴史の条件を比較することが必要です。
原典を読む
読む場所と読みどころを示します。「研究解説・文献案内」のリンク先は原典本文ではありません。邦訳の書名、章番号、訳語は版によって異なる場合があります。
PRIMARY READING
『黒い皮膚・白い仮面』
読む場所:黒人の生きられた経験を論じる章
身体、言語、他者の視線の関係を読む。心理的な経験を、政治と歴史の条件から切り離さない。
研究解説・文献案内研究解説・文献案内を開く ↗PRIMARY READING
「権力の植民性・ヨーロッパ中心主義・ラテンアメリカ」
読む場所:人種的分類、労働、ヨーロッパ中心主義の議論
植民地主義と植民性の区別を読む。概念がどの構造を説明しようとするかを確かめる。
著者論文・英訳PDF本文を開く ↗自分で考える
YOUR REASONING
ある概念が世界共通だと主張するとき、その主張から誰の経験が抜け落ちているかを、どう調べるでしょうか。
自分の主張、支える理由、最も強い反論を書き出してみてください。一つの正解を選ぶ問いではありません。
用語の確認
意味を確かめたい項目だけ開いてください。本文で論じた文脈に即した短い説明です。
ポーラン・フントンジ
個々の著者の批判や論証を、集団的な世界観だけへ還元しないことを重視しました。
確認する論点:民族全体が一つの哲学を共有すると描く「民族哲学」を批判した人物は
クワシ・ワイヤドゥ
自分たちの言語や概念から問いを検討することの重要性を論じました。
確認する論点:アフリカ哲学で概念的な脱植民地化を論じた人物は
ヘンリー・オデラ・オルカ
賢人哲学の探究では、個人が理由を示す思考のあり方が重要です。
確認する論点:口承の賢人たちの批判的な思考に注目した人物は
人間の関係と共同性
ウブントゥには複数の解釈があり、全アフリカを一つの教義で代表させないことが必要です。
確認する論点:ウブントゥに関わる重要な主題は
地域・著者・論争の違いを見落とす
思想の多様さと、それぞれの批判的な営みを確認します。
確認する論点:アフリカ哲学を一つの共同体主義だけで説明する問題は
フランツ・ファノン
植民地支配と自己理解、身体や社会の経験を問い直した著作です。
確認する論点:『黒い皮膚・白い仮面』で知られる思想家は
植民地支配と解放
政治的な支配だけでなく、人の経験や関係への影響が検討されます。
確認する論点:ファノンの思想の中心的な背景は
エンリケ・ドゥッセル
排除された人々の位置から、倫理や歴史の語り方を問い直しました。
確認する論点:ラテンアメリカの解放の哲学で知られる人物は
排除された他者の経験から考える
誰が中心で、誰が議論の外に置かれるかという問いが重要です。
確認する論点:ドゥッセルの解放の哲学を読む際に重要な視点は
アニバル・キハーノ
独立の後にも残る、権力や分類の関係を考える概念です。
確認する論点:権力の植民性の分析で知られる人物は
独立の後にも関係が残りうる
政治的な制度変更だけで、知や社会の関係のすべてが変わるとは限りません。
確認する論点:植民性と政治的な独立との関係について適切なのは
ソル・フアナ・イネス・デ・ラ・クルス
女性の学びと知の権威を考える、近世ラテンアメリカの重要な著者です。
確認する論点:ラテンアメリカの女性の学びや知の歴史で重要な著者は
個々の理由や批判の形を確認する
文献だけを唯一の形式とせず、批判的な議論のあり方を調べます。
確認する論点:口承の思想を研究する際に重要な態度は
誰が知を生産し誰の経験が認められるか
問いの主導権、概念、教育、制度の関係を検討します。
確認する論点:脱植民地化を考える際の中心的な問いは
訳語で消える差も検討する
翻訳は対話を開く一方、背景や概念の違いを見えなくする場合があります。
確認する論点:比較哲学で異なる言語の概念を使う際の注意は
同じ問いへの多様な応答と交流を知る
比較では共通点だけでなく、同一視できない違いも保ちます。
確認する論点:世界の哲学史を地域横断的に読む利点は
研究資料
人物・概念・著作の確認に用いる学術解説です。原典への書誌案内は各記事のBibliographyも参照してください。
- African EthicsStanford Encyclopedia of Philosophy
- African Sage PhilosophyStanford Encyclopedia of Philosophy
- Latin American PhilosophyStanford Encyclopedia of Philosophy
- ColonialismStanford Encyclopedia of Philosophy
- Frantz FanonStanford Encyclopedia of Philosophy
- Coloniality of Power, Eurocentrism, and Latin America (Aníbal Quijano, 2000)Duke University Press/著者論文の公開PDF