信じることと、理解することのあいだ。
歴史と問い
古代哲学の受容
キリスト教の思想家は、信仰の内容を理解するため古代の哲学をさまざまに用いました。アウグスティヌスは自己の内面、記憶、時間、悪や意志を深く検討します。中世の思想を単なる思考の停止と呼ぶと、哲学・神学・教育の内部で行われた議論を見落とします。
悪と意志の問い
アウグスティヌスの悪の欠如説は、悪を善と対等な独立の実体として置かない説明です。これは苦しみが現実に起こらないという意味ではありません。意志の自由、行為の責任、神の恩寵の関係は、単純な一文で解決できない問題として繰り返し論じられました。
大学と議論の方法
スコラ学では、文献を読み、問いを立て、反対意見を示し、応答を検討する方法が発展しました。アリストテレスの著作の翻訳や、イスラーム圏・ユダヤ思想との関わりも重要です。トマス・アクィナスは、信仰の内容と理性的に論じられる領域を区別しながら関係づけます。
存在・名前・節約
アンセルムスの神の存在に関する議論、普遍をめぐる論争、オッカムの議論は、何が説明に必要かを考える題材です。オッカムの剃刀は、単に短い答えがいつも真であるという原則ではありません。必要のない前提や存在者を増やしていないか、説明の根拠を吟味する姿勢として理解します。
議論を深く読む
中世を思考の空白にしない
教父とスコラ学の著作には、権威ある資料を読むことと、反対意見を理性的に検討することが共存します。大学の討論、翻訳、注解の積み重ねが議論の方法を支えました。信仰に関わる前提を持つから議論がないという見方は、時間、意志、因果、普遍に関する精緻な問いを見落とします。
時間を内面から読む
『告白』第11巻では、過ぎた過去とまだ来ない未来をどのように語れるかが問題になります。記憶、注意、期待の働きを考えることで、時間が単なる外の物の並びではないことが明らかになります。ただしアウグスティヌスの議論は創造と神の永遠性という問いの中にあるため、現代の心理学へそのまま置き換えられません。
反対意見から応答へ
『神学大全』の問いの形式では、反対意見を並べ、主たる応答を提示し、それぞれの異論に答えます。神の存在を論じる五つの道も、現代の自然科学の未解決部分に神を置く説明ではありません。運動や因果の理解、系列の依存関係を含む議論です。前提を採用する理由と、議論の射程を具体的に検討します。
論証の筋道
この章の議論を読むための整理です。原典の論証をそのまま逐語的に再現したものではありません。
問いを限定する
何を証明し、何を信仰の内容として扱うかを区別する。神に関する議論の結論が、直ちにすべての教義を証明するわけではない。
最も強い異論を置く
主張に不利な理由を先に取り上げる。著作の構成自体が、反対意見への応答を理解の条件としている。
説明に必要なものを吟味する
普遍や原因をどう扱うかを検討する。オッカムの節約の原則は、証拠を削って最短の答えを選ぶ命令ではない。
反論と残る問題
理性と信仰の境界は一様ではない
教父、中世の神学者、諸学派は同じ立場ではありません。理性で分かる範囲や、神の性質を言語で表す方法には違いがあります。「中世思想」という分類から、個々の問いと論争へ降りることが必要です。
原典を読む
読む場所と読みどころを示します。「研究解説・文献案内」のリンク先は原典本文ではありません。邦訳の書名、章番号、訳語は版によって異なる場合があります。
PRIMARY READING
『告白』
読む場所:第11巻
創造、永遠、時間の問いがどうつながるかを読む。記憶と期待の説明を、神学的な文脈から切り離さない。
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『神学大全』
読む場所:第1部・第2問題・第3項
五つの道だけでなく、反対意見と各応答を読む。議論の前提にある運動と原因の意味を確かめる。
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YOUR REASONING
理解できない内容を信じることと、理解しようと努めることは、どのような関係にあるでしょうか。
自分の主張、支える理由、最も強い反論を書き出してみてください。一つの正解を選ぶ問いではありません。
用語の確認
意味を確かめたい項目だけ開いてください。本文で論じた文脈に即した短い説明です。
アウグスティヌス
『告白』は生の振り返りと、記憶・時間・神への問いを含みます。
確認する論点:『告白』で内面や時間を論じた思想家は
神の国と地の国
この区別を現代の一つの国家制度へそのまま置き換えるのは不適切です。
確認する論点:アウグスティヌスの『神の国』で中心となる区別は
善の欠如
悪の欠如説は、苦しみの現実性を無視するという意味ではありません。
確認する論点:アウグスティヌスの悪の説明として重要なのは
時間
時間を自己の経験と結びつけて考える問いが重要です。
確認する論点:アウグスティヌスが過去・現在・未来を論じた代表的な主題は
恩寵
恩寵と人の意志・責任との関係は、神学と哲学の大きな論点です。
確認する論点:神の助けや恵みを表す、キリスト教思想の語は
アンセルムス
アンセルムスは、信仰と理解の関係を論じた代表的な思想家です。
確認する論点:信仰の内容を理性的に理解しようとした中世の人物は
それ以上に大きなものが考えられない存在
考えることと存在することとの関係が問題となり、後の批判も生まれました。
確認する論点:アンセルムスの神の存在論証に関わる出発点は
スコラ学
問い・反対意見・応答を組み合わせた議論の方法が発展しました。
確認する論点:中世の学校や大学で発展した学問的な議論の伝統は
トマス・アクィナス
トマスは古代哲学を受け継ぎつつ、哲学と神学の関係を論じました。
確認する論点:『神学大全』を書いた思想家は
五つの道
運動や原因などの経験的な事柄から神の存在を論じる複数の道筋です。
確認する論点:トマスの神の存在に関する代表的な議論の呼び名は
アリストテレス
アリストテレスの形而上学や倫理学などが重要な参照点となりました。
確認する論点:トマスが大きな影響を受けた古代の哲学者は
理性による善の理解
自然法は、人の理性的な理解と道徳の秩序を結びつけて考えます。
確認する論点:トマスの自然法の議論では、人の何が重要な役割を持つ
普遍論争
例えば「人間」という普遍と、個々の人との関係が問われました。
確認する論点:複数の個体に共通するもののあり方を問う中世の論争は
唯名論
中世の唯名論には複数の形があり、名前だけの一様な立場ではありません。
確認する論点:一般的な名称や概念を重視し、普遍を独立した実体として置かない立場は
不要な存在者や前提を増やさない
説明に必要な根拠を省くための原則ではありません。
確認する論点:オッカムの剃刀に関連する原則は
異なる言語圏の議論を受け継ぐ役割
ギリシア・アラビア語・ラテン語などの間で文献と解釈が伝わりました。
確認する論点:中世哲学における翻訳の重要性は
反対意見を取り上げ応答する
異なる論拠を並べて検討することが、方法の重要な部分です。
確認する論点:スコラ学の問いの方法について適切なのは
研究資料
人物・概念・著作の確認に用いる学術解説です。原典への書誌案内は各記事のBibliographyも参照してください。
- Augustine of HippoStanford Encyclopedia of Philosophy
- Anselm of CanterburyStanford Encyclopedia of Philosophy
- Thomas AquinasStanford Encyclopedia of Philosophy
- William of OckhamStanford Encyclopedia of Philosophy