豊かさの、その先へ
所得だけでなく、時間・ケア・環境から経済を見直す。
本書独自の象徴的な挿絵。特定の都市・時代の復元図ではありません。数値のない折れ線は統計を表していません。生産が伸びると、暮らしはどう変わるか
戦後の一部の地域では、生産と所得が大きく伸び、住宅、家電、自動車、教育などへの支出が広がりました。高い成長は、投資、技術の普及、人口と雇用、国際的な条件が関わる過程です。すべての国と家庭が同じ経験をしたわけではありません。冷蔵庫や洗濯機の普及も、電力、水、住宅の条件と結びつきます。
商品を持つことと、その商品を使える生活の基盤を分けて考えると、成長の中身が見えてきます。
社会保障が分ける危険
病気、失業、老いによって収入が減る危険を、家族だけで引き受けるか、社会の制度で分担するかは重要な違いです。税、保険料、給付、公共サービスは、危険を分ける方法になります。福祉国家という名称の中にも、対象、財源、家族の役割に違いがあります。米国の1935年社会保障法のように、戦前からの制度も戦後の議論を支えます。
制度の成立、拡張、除外された人々を区別して読みます。
家電とケアの時間
家電は特定の作業の時間を減らす場合がありますが、家事やケアの負担が自動的に平等になるわけではありません。求められる家事の水準、家族の人数、就業、公共の保育や介護の条件が関わります。女性の教育と就業の変化を読むときも、家庭の中の仕事と、働く機会の制度を一緒に見る必要があります。
賃金のある仕事だけを経済と呼ぶと、毎日の生産を可能にする生活の仕事が背景へ消えてしまいます。
成長の利益と、環境の負担
生産と消費の増加は、資源、交通、土地、廃棄物の量にも関わります。工場や都市の拡大が健康と生活を損なう場合、所得の伸びだけでは評価できません。利益を得る人と被害を受ける人が違うこともあります。成長を無条件に善いとすることも、生活改善の意味をすべて否定することも避けます。
何が改善し、何が負担として残り、制度がどう対応したかを、複数の指標と記録から読んでいきます。
家のレンズ
洗濯機で浮いた時間は、誰の時間?
架空の家庭で洗濯の手間が減ったとします。その時間を休息に使うか、賃金労働に使うか、別の家事に使うかで影響は違います。時間を誰が使うかを決める権限も重要です。技術の便利さと、家庭の中の配分を分けることで、商品がもたらす変化を丁寧に考えられます。
しくみを図で読む
生活を支える制度
- 01働いて収入を得る
- 02税と保険料を分担する
- 03給付とサービスを使う
- 04家族と個人の危険を減らす
関係を整理する模式図です。規模・量・時間の比率を示す統計図ではありません。
ここを区別する
家電が増えれば、家事の不平等は解決?
作業の時間と、仕事の割当、期待、決定権は別です。技術と制度、家庭の関係を一緒に考えます。
自分で考える
豊かさを所得以外でも測るなら、時間、健康、教育のどんな条件を調べたいでしょうか。
自分の説明と、それを支える理由を書き出してみてください。決まった一つの答えを選ぶ問いではありません。基本用語
社会保障
病気、失業、老いなどの危険に、給付やサービスで対応する制度。対象と財源に違いがあります。
福祉国家
国家が生活の保障に大きな役割を担う仕組みの総称。一つの制度だけを指すわけではありません。
生活水準
食、住居、健康、利用できる物やサービスなどの条件。平均所得と同じ一つの数字ではありません。
資料を読む
資料の性格と読むポイントを示します。一次資料を扱うリンクでも、目録や解説を介して本文に進むものがあります。本書の文章は独自の解説で、原資料の逐語訳ではありません。
- 教育・研究解説
経済成長と資本主義の長期的な変化 ↗CORE Econ読みどころ:生産と所得の伸び、地域差、環境との関係。推計と説明を分けて読む。
- 法令・原資料
1935年社会保障法 ↗National Archives(米国)読みどころ:保障の対象、財源、制度の限界を読む。
- 研究紹介
女性の労働市場をめぐる歴史研究 ↗The Nobel Prize読みどころ:就業の変化と、教育・制度・家庭の条件。女性を一つの経験にまとめない。
- 研究報告
ケア労働と雇用 ↗International Labour Organization読みどころ:有償と無償のケア、時間の負担、制度。賃金がないことと価値がないことを区別する。