働く時間を、誰が決める?
生産の拡大と、人々の労働・国家の制度を同じ画面で読む。
本書独自の象徴的な挿絵。特定の都市・時代の復元図ではありません。数値のない折れ線は統計を表していません。先に始めた国と、後から広げる国
工業化の後発地域は、すでにある技術や制度を学び、導入することができます。しかし同じ機械を買えば同じ結果になるわけではありません。燃料、技能、教育、交通、資金、市場の条件が違うからです。先行国との競争も、生産方法の選択を変えます。工業化を一つの決まった段階表で順位づけず、何を取り入れ、何を別の制度で補ったかを読みます。
模倣にも、現地の条件に合わせる仕事があります。
アメリカの大きな市場と企業
広い市場、交通、生産の標準化、企業の組織は、米国の工業化を考える入口です。規模を広げると、一度の投資を多くの生産に使うことができる場合があります。一方、大きな企業が競争を制限し、労働や価格への力を強める問題もあります。1890年のシャーマン反トラスト法は、その対応を読む資料です。
大企業があることと、その力がどこまで許されるかは別の問題であり、法律の運用にも歴史があります。
ドイツの技術・教育・資金
ドイツの工業化では、重工業、化学などの産業、技術と教育、企業と資金の関係が重要な論点になります。銀行や国家の関わりを認めても、経済全体が一つの中央指令で動いたとするのは単純化です。地域の生産、民間企業、技能を持つ人々も役割を担います。国家の形成と市場の統合は関わり合いますが、どの政策がどの産業に何をもたらしたかを具体的に検討する必要があります。
日本の制度と働く人
明治期の日本では、通貨、銀行、交通、教育、工業の制度が再編されました。日本銀行は1882年に設立され、通貨と金融の歴史の一つの節目になります。工業化は政府の制度設計だけでなく、既存の商業と手工業、民間の事業、地域の労働に支えられました。繊維産業などを読むと、女性の労働と家族、農村とのつながりも見えてきます。
国全体の成長の数字と、働く人の生活の変化を同じ速さとみなさないことが重要です。
仕事のレンズ
技術を持ち込む、その次の仕事
架空の工場に新しい機械を入れるとします。操作を学ぶ人、修理する人、部品を作る人、資金を用意する人が必要です。技術移転は、完成品を運ぶだけの作業ではありません。教育と保守、組織を整える過程まで見ると、地域に合う形で使えるようにする仕事が分かります。
しくみを図で読む
後発工業化の条件
- 01技術を取り入れる
- 02技能と交通を整える
- 03資金と組織を作る
- 04市場で生産を続ける
関係を整理する模式図です。規模・量・時間の比率を示す統計図ではありません。
ここを区別する
国家が関われば、企業の活動は同じになる?
政策、地域、企業、技能の違いが残ります。国家の役割を認めることと、全体を一様な指令とすることを分けます。
自分で考える
同じ機械を別の国へ運んでも、同じ生産ができないとすれば、何が足りないのでしょうか。
自分の説明と、それを支える理由を書き出してみてください。決まった一つの答えを選ぶ問いではありません。基本用語
技術移転
技術と知識が別の場所へ伝わり、利用されること。設備だけでなく、技能や組織が関わります。
規模の経済
生産規模が大きくなることで、一単位当たりの費用が下がる場合の関係。無限に大きくすればよいとは限りません。
競争政策
競争を損なう行為や市場の力へ対応する政策。大企業の存在と、具体的な行為の評価を分けます。
資料を読む
資料の性格と読むポイントを示します。一次資料を扱うリンクでも、目録や解説を介して本文に進むものがあります。本書の文章は独自の解説で、原資料の逐語訳ではありません。
- 法令・原資料
1890年シャーマン反トラスト法 ↗National Archives(米国)読みどころ:企業の拡大と競争政策。制定とその後の運用を分けて読む。
- 制度史の解説
日本銀行創立の経緯 ↗日本銀行読みどころ:明治の通貨・銀行制度の再編。現代の中央銀行像をそのまま当てはめない。
- 一次資料・研究案内
ドイツ帝国形成期の原資料案内 ↗German Historical Institute・GHDI読みどころ:工業化、政治、社会の関係を、資料の作成者の立場も含めて読む。
- 教育・研究解説
経済成長と資本主義の長期的な変化 ↗CORE Econ読みどころ:生産と所得の伸び、地域差、環境との関係。推計と説明を分けて読む。