PART 01 / CHAPTER 01

第1章
経済史は、暮らしの歴史

一枚の服から、世界をたどる。

古代から現代世界各地暮らし・分配
OPENING PICTURE / PART 1

食べものが、社会を動かす

食の確保記録する交換する

収穫・保存・記録・交換。暮らしを支える活動が、互いにつながる。

本書独自の象徴的な挿絵。特定の都市・時代の復元図ではありません。数値のない折れ線は統計を表していません。
01 / READ THE HISTORY

値札の向こうにいる人々

店で一枚の服を選ぶとき、目に入るのは色、形、値段です。しかしその服には、原料を育てる人、糸を作る人、縫う人、運ぶ人、店を支える人が関わっています。誰が仕事を決め、道具を持ち、売れ残りの損失を負うのでしょうか。経済史は、こうしたつながりが時代と場所によってどう変わったかを読む学問です。

お金のある人だけの物語ではなく、働く時間、食べるもの、住む場所、他者との関係の歴史でもあります。

02 / READ THE HISTORY

生産・交換・分配を分ける

生産は、材料や労働を使って物やサービスを生み出すことです。交換は、商品や権利が人の間を移ること。分配は、得られたものを誰がどれだけ受け取るかという問題です。よい機械によって多くの服を作れるようになっても、すべての人の暮らしが同じだけよくなるとは限りません。賃金、所有、税、家族内の決定権が関わるからです。

生産が増えたという説明と、公平に分配されたという評価を分けると、経済の変化を丁寧に読めます。

03 / READ THE HISTORY

成長の数字には、読み方がある

GDPは一定期間に生み出された付加価値をまとめる指標です。地域全体の規模と、一人当たりの水準は違います。所得が増えても、物価が同じだけ上がれば買える量は増えません。過去のGDPは、現代の統計をそのまま遡った数字ではなく、限られた記録からの推計を含みます。国の境界、人口、価格基準が変われば比較も難しくなります。

数字は経済史の大切な道具ですが、家事、ケア、健康、自由、環境を一つの数ですべて表すことはできません。

04 / READ THE HISTORY

一つの成功物語にしない

経済史を、古い不便な時代から豊かな現代へ一直線に進む物語にすると、失われたものや地域の差が見えなくなります。工業化は生産を増やす一方、公害や過酷な労働も生みました。交易は物と知識を運びましたが、強制と暴力を伴う交易もあります。本書では、変化のしくみ、暮らしへの影響、利益と負担の分かれ方を同時に読みます。

後の制度を古代へ当てはめず、同じ「市場」や「会社」という言葉の中の違いを確かめます。

暮らしのレンズ

同じ給料、違う暮らし

二つの町で月の給料が同じでも、家賃、食べ物、通勤、保育の条件が違えば暮らしは同じになりません。ここでは架空の比較として、給料から何を買い、どんなサービスを利用できるかを考えます。値段に加えて、利用できる公共サービス、自由に使える時間、家族の中の負担をメモすると、所得だけでは分からない差が見えてきます。

VISUAL NOTE

しくみを図で読む

服が届くまで

  1. 01原料を育てる
  2. 02糸と布を作る
  3. 03縫って運ぶ
  4. 04店で選ぶ
価格は仕事のつながりの中で決まる。矢印は代表的な流れで、同じ国・同じ企業がすべてを担うとは限らない。
関係を整理する模式図です。規模・量・時間の比率を示す統計図ではありません。
A USEFUL DISTINCTION

ここを区別する

GDPが高いなら、誰もが豊か?

平均や総額から、一人ひとりの暮らしを決めつけることはできません。分配と、数字に入らない活動も読む必要があります。

THINK FROM YOUR LIFE

自分で考える

今日使ったものを一つ選び、作った人、運んだ人、負担を引き受けた人を書き出してみましょう。

自分の説明と、それを支える理由を書き出してみてください。決まった一つの答えを選ぶ問いではありません。
WORDS & IDEAS

基本用語

付加価値

生産した価値から、途中で使った材料やサービスの価値を差し引いたもの。同じ生産の価値を何度も数えないための考え方です。

実質

物価の変化を調整して考えること。金額が増えることと、買える量が増えることを区別します。

分配

所得や資源、時間、権限が誰にどのように渡るかという問題。生産の量とは別に検討します。

SOURCES TO EXPLORE

資料を読む

資料の性格と読むポイントを示します。一次資料を扱うリンクでも、目録や解説を介して本文に進むものがあります。本書の文章は独自の解説で、原資料の逐語訳ではありません。

全24章の目次